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当院で行っている診療
うつ病

- 気分が落ち込む。
- 何に対しても興味がわかず、喜びを感じない。
- 食欲が低下し、体重が減っている。
- 不眠または過眠。
- 話し方や動作が鈍くなったり、イライラしたり落ち着かなくなったりする。
- 疲れやすかったり、やる気が出なかったりする。
- 自分に価値がないと感じたり、自分を責めるような気持ちになる。
- 考えがまとまらず、集中力が低下し、決断できない。
- 自分を傷つけたり死ぬことを考えたりする。
- 自律神経系の乱れによるさまざまな身体の不調、痛みなど。
職場、学校、家庭などにおけるつらさ、過労、人間関係の悩み、あるいは大切な人との別れや環境変化などをきっかけに、ゆううつになる、気持ちが落ち込むといった経験は誰にでもあると思います。しかし、その程度が重く、長く続く場合、脳内ホルモンがバランスを崩してしまい、うつ病を発病してしまうことがあります。うつ病は約7人のうち1人が一生のうち一度は経験する、ありふれた病気であることが知られています。
上記のようなこころの症状、身体の症状があり、2週間以上にわたって日常生活に明らかな支障をきたしている場合、うつ病であると診断されます。治療は可能です。まずは十分な休養と適切な薬物療法が必要となります。可能な限り、副作用や依存性が少ないお薬を提案させていただきます。
双極性障害(躁うつ病)

双極性障害(躁うつ病)は上記の「うつ」病の症状だけでなく、調子が高くなり、活発になり過ぎてしまう「躁」状態が生じることがあり、それを繰り返してしまう病気です。躁状態の時は以下のような症状があります。
- 気分が高揚し、爽快である、あるいは怒りっぽくなる。動き回ってしまう。
- 自分が何でもできると思ったり、特別な存在だと感じたりする。
- 徹夜したり、睡眠時間が短くても平気である。
- いつもよりおしゃべりになる。
- 一つのことに集中できず、次から次へと移っていってしまう。
- 新しいアイデアがどんどん浮かんでくる。
- 友人、知人に対するメール、電話を頻繁にしたり、異性に対する関心が高まる。
- あまり必要でないものや高価なものを買ってしまったりする。
躁状態が比較的軽いうちは本人の自覚がありますが、躁状態が著しくなると、周囲は困ってしまうけど、自分は調子が良いので病的だと思わないということがあります。やはり脳内ホルモンのバランスが乱れていることが想定されており、一定期間続く場合、双極性障害(躁うつ病)と診断されます。躁状態の時にしてしまった自分の言動によって、大切な人間関係や社会的な信用を失ってしまうことがあるため、注意が必要です。
治療には薬物療法が有効ですが、長期的に見ると、躁状態、うつ状態のそれぞれに対する治療だけでなく、そういった病相を予防することが大切になります。
社交不安症

- 他人に注目される場面に対する恐怖・不安が強い。
- 人に注目される場面で恥ずかしい思いをする、否定的な評価を受けることを恐れる。
- 人前で緊張し、顔が赤くなる、発汗する、声や身体がふるえる、言葉につまることなどを過剰に気にする。
- 人前での不安、恐怖に対して、相当がまんをしてやり過ごすか、社交的場面を回避したりする。
- これらの症状により日常生活・社会生活に明らかに支障をきたすことが半年以上続いている。
社交不安症は10代に発病することが少なくないのですが、思春期における対人場面を経験しながらスキルが身に付いたり、自分のアイデンティティが確立して、そういった自分を素直に受け入れたりすることによって、生活に著しい支障をきたさなくなることが多いものです。
しかし、対人場面における不安・恐怖が持続し、社会に出ても苦痛を感じながら耐え忍んでいたり、アルコールで紛らわしたりしているうちにアルコール依存になってしまう人もいます。また、社交場面、他人との交流を回避する生活スタイルをとり、対人不安を感じる機会を低くとどめる対処をずっと続けている人もいます。
どのタイミングでも、この社交不安症について何とか治療したいということであれば、治療法はあります。薬物療法も効果的ですし、認知行動療法的なアプローチも有効です。
パニック症

- 動悸、胸がドキドキする。
- 発汗がひどい。
- 手足や身体がふるえる。
- 息切れのような感じ、息苦しい。
- のどがつまる感じ、窒息するような感じがする。
- 胸が痛い、胸が不快であると感じる。
- お腹の不快感や吐き気。
- めまい、ふらつき、気が遠くなる感じがする。
- 冷たく感じたり、熱く感じたりする。
- 身体がしびれたりするなどの異常な感覚。
- 周りが現実ではないような感じ、自分が自分ではない感じがする。
- コントロールを失ったり、気がおかしくなるのではないかと感じる。
- 死んでしまうのではないかと恐怖がある。
上記のような症状が突然始まり、短時間で収まるが、内科的な検査では異常はない場合、パニック発作であることが疑われます。さまざまな身体の症状とともに、恐怖感などのこころの症状も伴い、大変つらいため、「またこのような発作が起きるのではないか」という予期不安が続くことがあります。
また、発作が起きそうな状況や外出を避けることになり、日常生活に大きな苦痛や不自由さが生じることがあります。この状態をパニック症といいます。
パニック症のことを正しく理解し、適切な薬物療法を受けながら、パニック発作を過度に恐れず、生活・行動パターンを徐々に変化させていくことが大切です。
パニック症の3大症状
パニック症になると、「パニック発作」、「予期不安」、「広場恐怖」という症状が起きるようになります。このうちパニック発作は突然起こり、激しい動悸が起こったり、暑くないのに汗が止まらなくなったり、心臓が激しくドキドキしたり、身体が震えたりします。そのため、患者さまは強い不安感に襲われます。多くは20~30分くらい、長くても1時間以内には治まります。パニック発作自体は、生涯で一度は経験する割合が高いのです。しかし、なかには数日から数ヶ月後に、再びパニック発作が起こることもあり、この状態になると「パニック症」と診断されます。
パニック発作を何度も繰り返していると、「再び発作を起こしたらどうしよう」という強い恐怖感や不安感が生まれてきて、これを「予期不安」と呼びます。さらに、「人目の多い場所でパニック発作が起きたらどうしよう」、「発作を他人や大勢の人に見られるのは恥ずかしい」といった不安や恐怖によって人混みを避けるようになることを「広場恐怖」と呼びます。
この3つの症状が悪循環となり、パニック症を悪化させていきます。パニック症が悪化すると、外に出ることができなくなり、正常な社会生活を送ることが難しくなるため、うつ病を併発するケースも多くあります。
強迫症

- 不潔、汚染などが過剰に気になり、手洗いなどを繰り返す。ドアノブなどを触れない。
- 戸締りやガスの元栓、鍵などに対する過剰な心配があり、確認を繰り返す。
- ものごとの手順や配置に過度にこだわり、その通りにやらないと気が済まない。
- 不吉な数字などを気にして、過度にこだわる。
- 誰かに危害を加えてしまったかもしれないという考えが止まらず、気になって仕方ない。
そこまで心配しなくてもいいことだとわかっていても止まらない「強迫観念」と、そこまでやらなくていいとわかっていてもやめられない「強迫行為」によって、日常生活に支障をきたします。過度に几帳面な人、潔癖症の人の延長線上にあるものと考えてもよいと思います。
新型コロナウイルス感染症流行の中で、マスク着用、アルコールによる手指消毒、不要不急の外出や三密を避ける行動様式が習慣化した昨今、どこまでを「過剰」と考えるかの線引きは難しい部分があります。
薬物療法は有効ですが、少し期間をかけてゆっくりと服用していく必要があります。また、曝露反応妨害法という行動療法を実践していくことで、強迫観念→強迫行為というパターンを変えていく努力が必要になります。
注意欠如・多動症(ADHD)

この疾患の診断において、症状が、12歳以前(小学校の年代頃)までに始まっていた、ということが前提となります。
しかし、症状が比較的軽度であったり、育った環境によって、あまり問題視されず、学童期・学生時代には診断されずに成人となっているADHDの方も少なくありません。以下は成人の場合のADHDの症状です。
- 仕事などでケアレスミスをする。
- 物事を順序立てておこなっていくことが苦手。
- 約束の時間に遅れてしまう。締め切りに間に合わない。
- 忘れ物が多い。物をなくしてしまう。
- 片付けが苦手。荷物がやけに多い。
- 何かしていないと落ち着かない。じっとしていない。
- 人が話している途中にかぶせて話し出してしまう。
- 衝動買いをしてしまう。
ADHDの症状そのものというよりは、それによって仕事で失敗する、上司に注意される、周囲とうまくいかない、そういったストレスから不安、うつになってしまう、自信がない、気力がわかないという、二次障害としての不安やうつの症状、対人関係でお悩みの方が多いようです。
幼少期からの行動特性を母子手帳や通知表、養育者からの情報を元に確認できれば、当時からADHDであり、現在もその特性による生きづらさが続いてるのではないかと診断することも可能となります。
自分の特性を自分自身がよく知ること、周囲の人のご理解をいただくことによって、ADHDにもとづく困りごとや二次障害を軽減することができるかもしれません。
ご希望があれば、ADHDに適応が認められているストラテラ(アトモキセチン)、インチュニブ(グアンファシン)、コンサータ(メチルフェニデート徐放錠)の処方をすることも可能です。
統合失調症

- 感覚が過敏になり、音に敏感になる。
- 周囲から見られている、悪口を言われていると感じる。
- テレビやネットで自分の情報が流れている、誹謗中傷されると考える。
- いない人の声が聞こえてくる。
- 会話にまとまりがなく、混乱したり、一貫性がなくなったりする。
- 自発性が低下し、感情表出が鈍くなったり、自閉的になったりする。
統合失調症は約100人に1人の割合の方が罹患する疾患です。10代から30歳頃までに発病することが多いという特徴があります。脳内ホルモンのドパミン系の異常が関与していると言われていますが、詳しい病因はわかっておりません。
治療薬は必須ですが、副作用が少ない薬が開発されており、早期診断・早期治療によって回復する方も多くいらっしゃいます。治療の中断による再発の可能性があるため、患者さまに合った薬を気長に続けられるよう、ご本人・ご家族が病気についてよく理解することが大切です。
すでに治療中の方については、お薬の種類や剤型の変更等の相談にも対応いたします。
症状が一段落したら、病気によって狭まっていた生活をどのように広げていくか、一緒に考えていきます。また、役所、保健センター、社会福祉施設など、暮らしや就労などについての相談窓口との連携も行います。
自立支援医療、精神保健福祉手帳、障害年金等の診断書の作成もいたします。
自律神経失調症

- 倦怠感、頭痛、肩こり
- 筋肉痛、しびれ
- めまい、ふらつき、耳鳴り
- 口の乾き、動悸、息苦しさ
- のぼせ、冷え、発汗
- 食欲低下、吐き気
- 腹痛、下痢、便秘
- 頻尿、残尿感 など
自律神経は、身体を活発に動かすアクセルの働きをする交感神経と、身体を休ませるブレーキの働きをする副交感神経からなり、うまくオートマチックにバランスを保っています。このバランスが崩れる原因はいくつかありますが、不規則な生活、休養や睡眠時間が短いこと、婦人科系の要因(更年期障害など)とともに、ストレスが影響します。出現する症状は上記のように多彩であり、その方の体質によって優勢となる症状が異なります。
まずは十分な睡眠と休息をとること、規則正しい生活をすることが基本ですが、気分転換、ストレス発散、エクササイズ、ヨガなども有効です。必要に応じて薬物療法も行います。
なお、上記のような自律神経失調症の症状は、うつ病の身体症状として現れることも多いため、うつ病のこころの症状を伴っているかどうかの診断も重要です。その場合、うつ病の治療をしっかりと行うと、自律神経の症状も改善します。
身体の不調(心身症)

- 下痢、便秘
- 腹痛、吐き気、胃の不快感、食欲低下
- 皮膚のかゆみ、湿疹や皮膚炎など
- 高血圧、頻脈
- 頭痛、身体のあちこちの痛み など
心身症は、ストレスが原因となり発症したり、元々の症状が悪化したりする身体の病気です。内科や皮膚科などで、器質的異常、あるいは機能的異常(はたらきの異常)が認められ、診断名がつくものです。具体的には、過敏性腸症候群、機能性ディスペプシア、本態性高血圧症、アトピー性皮膚炎、頭痛、疼痛性障害などがあります。
抱えているストレスについて整理したり、生活習慣を健康的なものにしていくことで、症状は改善する可能性があります。薬物療法も有効ですが、心療内科・精神科的なアプローチとともに、内科や皮膚科などの受診も必要に応じて受けたり、並行して続けたりする方針を検討した方が良いでしょう。
睡眠障害

- 寝つきが悪く、なかなか眠りに入ることができない。
- 眠っている途中で何回も目が覚めてしまい、しばらく眠りが中断されることがある。
- 起床時間よりもかなり早く目覚めてしまい、そこから眠ることができない。
- 時間的には睡眠がとれているようだが、ぐっすり寝た気がしない。夢を多くみる。
人間は1日のうち4分の1から3分の1の時間を眠っています。睡眠は疲れをとり、さまざまな身体の機能、自律神経、ホルモンなどを整えるために欠かすことはできません。日中の活動と睡眠はおもて・うらの関係にあり、より良い睡眠をとるためには、日中の活動性を高めることも大切です。
しかし、実際のところ、睡眠がよくとれないため、日中の眠けや倦怠感があり、思うように活動できない方も多くいらっしゃいます。
睡眠障害にはさまざまなパターンがあり、背後に睡眠時無呼吸症候群などの身体の病気が隠れていることもあります。その場合、耳鼻科や呼吸器科などを受診して専門的に診断をしてもらう必要があり、治療法も異なります。
心療内科・精神科の領域ではうつ病、躁うつ病、統合失調症などによって睡眠が乱れることも多くみられます。この場合はその疾患に対する治療を行うことで睡眠状態も整っていきます。
いずれにも当てはまらず、睡眠に対する悩みが強い方には、不眠症(不眠恐怖症)として、より良く眠るための生活指導、必要に応じて薬物療法を行います。
適応障害

- 不安、恐怖感
- ゆううつな気分
- 意欲が出ない、集中できない
- イライラ、落ち着かない
- 怒りが抑えられない
- 寝つきが悪い、眠りが浅い
- 食欲低下、あるいは過食
- 動悸、息苦しさ、吐き気、めまい、過呼吸発作など
- 頭痛、肩こり、身体の痛み、倦怠感など
- 出勤できない、登校できない
- お酒を飲み過ぎてしまう、二日酔いが多い
- けんかや口論、物に当たったりする
職場、学校、家庭、地域、友人関係などにおけるストレス要因があり、その影響で不安、うつ、身体の不調、出社等ができなくなってしまう、過剰な飲酒、イライラしてけんかするなどの症状が出てくることがあります。
症状が一定以上重く長く続けば、うつ病などのはっきりとした診断がつくのですが、そこまでではない、「比較的」軽度であったり、一時的であったり、状況によって症状が重くなったり軽くなったりする場合、適応障害と考えた方が良いという判断をします。適応障害とひと口に言っても、どのような症状があるかは人それぞれです。
心療内科・精神科診療の場面では、職場におけるストレス・過労などが影響していると思われる適応障害の方が多く来院されます。症状についてはもちろんですが、職場における困りごとなどをお聞きして、どのようにしたらこういった症状を軽減できるか、一緒に考えていきます。
患者さまが希望されれば、診断書を速やかに作成して、いったん休養してもらったり、職場における負担を軽減してもらったり、配置転換等を検討してもらうなど、医学的に判断した結果を会社側に伝えることもいたします。補助的な薬物療法も必要に応じて行います。
認知症

- 同じことを何回も聞いたり、話したりする。
- 置き忘れや片づけたことを忘れて、よく探し物をしている。
- 同じものを何回も買ってくる。
- 財布、印鑑や通帳などの大事なものをなくす。
- 電子レンジやリモコンなどの操作ができなくなる。
- 曜日の感覚があいまいになり、ゴミ出しの日を間違える。
これらは認知症の初期症状としてよくあるエピソードです。認知症とは、何らかの原因によって脳の働きが悪くなり、物忘れが目立つようになったり、日付や時間がわからなくなったり、ものごとの段取りがうまくいかなくなるなどの症状が現れ、日常生活に支障をきたすものです。
2012年の大規模疫学調査により、わが国における65歳以上の方の4人に1人は認知症と認知症予備軍*であることがわかりました。高齢化社会は年々進んでいますので、2020年の段階で、65歳以上の方のうち、6人に1人に認知症の診断がつくと試算されています。
*物忘れはあるが軽度であり、生活に大きな支障がなければ軽度認知障害(MCI)=認知症予備軍と位置付けられます。認知症への進行の予防という観点から、その後の経過観察が大切です。
診断には、本人の診察とともにご家族からの情報が大切です。記憶障害・認知障害に対する心理検査、頭部MRI検査などを行う必要があります(MRI検査については連携医療機関等に依頼して受けていただきます)。
認知症の中ではアルツハイマー型認知症が最も多いことが知られており、それ以外にも血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などがあります。認知症の進行を遅らせるお薬、随伴症状としての不安、抑うつ、イライラに対する補助的なお薬などを服用することで、ご本人にとってのつらさを軽くしたり、介護される方の負担を軽減することも可能です。
症状の程度・性質、単身生活の方、同居家族がいらっしゃる方によっても異なりますが、地域における生活を安心して続けるために、介護保険による介護サービスを利用することをお勧めする場合があります。その場合の介護保険主治医意見書も作成いたします。
「3大認知症」について
アルツハイマー型認知症
認知症全体の半分近くがこのタイプで、記憶障害以外に目立った症状がないのが特徴です。65歳未満の方でも発症することがあり、「若年性アルツハイマー病」と呼ばれます。医学の進歩により、近い将来脳内の特定物質を検査することで治療が可能となるといわれています。
レビー小体型認知症
手の震えや小刻みな歩行など、いわゆる「パーキンソン症状」と呼ばれるものや、家の中にいるはずのない人がいる、というような幻覚(幻視)症状などが特徴的な認知症です。認知症全体の1~3割程度がこのタイプです。
血管性認知症
脳梗塞や脳出血など、脳の血管障害が原因の認知症です。高血圧や糖尿病などの基礎疾患がある場合にリスクが高くなります。急速に進行するため、ご家族が医療機関に連れて来られる場合が多いです。脳血管障害が原因なので、脳外科と連携をとりながら治療を行います。
アルコール依存症

- お酒を飲まないと寝付けないことが多い。
- 飲み始めると予定より多く飲んでしまい止められないことがある。
- 二日酔いで仕事を休んだり遅刻をしたりしたことがある。
- 身体の病気のため、医師からお酒をひかえたほうがいいと言われたことがある。
- 朝から酒を飲んでしまうことがある。
- 酒を飲まなければいい人だと言われたことがある。
- 酒が切れた時、手が震えたり、汗が出たり、イライラする。
お酒は適度にたしなめば、こころがリラックスしたり、ストレスが軽減したり、身体の血流が良くなったりする効果もあります。食事と合わせて楽しんだり、友人たちと一緒に語らう時に飲んだりするなど、私たちの生活を豊かにしてくれる存在でもあります。
しかし、一方で、飲酒によって身体やこころ、人間関係、仕事などの何らかのトラブルをきたしていることがわかっているにも関わらず、このお酒の量や飲み方が制御できなくなる場合、アルコール依存症に陥ってしまっていると判断されます。
γGTPなど肝臓の検査値が上がったり、胃炎や膵炎などを指摘されたため、一時的に酒を控え、身体が元気になったらまた同じようにお酒を飲み始めて止まらなくなるのは、アルコール依存症の方の病歴によくあるパターンです。
アルコール依存症の治療方針の基本は断酒です。しかし、アルコール依存症の方が、一人で、自分の意志でお酒をやめようとするのには限界があります。何回も断酒を失敗し再飲酒を繰り返していても、医療機関に相談し、正しい知識と対応法を学び、自助グループへの参加につながることで、その先の人生を変えていける可能性があります。補助的な治療薬を処方することもできます。下記の治療薬のうちの一つであるセリンクロ(ナルメフェン)の処方についても対応いたします。
アルコール依存症に対する
治療薬について
抗酒薬
従来から使用されている「抗酒薬(嫌酒薬)」としてシアナマイド(シアナミド)、ノックビン(ジスルフィラム)があります。これらはアルコールが体内で分解される過程で働くアセトアルデヒド脱水素酵素をブロックする作用があります。抗酒薬を飲んだ後に飲酒すると、アルコールがアセトアルデヒドまでは分解されても、その先になかなか行かないため、吐き気、頭痛、動悸、気分不快などのつらい症状が出てしまいます。そのような不快やつらさを避けたいということで、飲酒行動に歯止めがかかるというものです。断酒に対する本人の動機づけと抗酒薬に対する正しい理解をもとに毎日服用を継続することが必要となります。
断酒補助薬
アルコールは中枢神経系を抑制する作用がありますが、アルコール依存症になると神経の抑制↑⇔興奮↑のせめぎあいとなり、興奮性神経系の作用が強くなってしまい、これを鎮めるために飲酒することをやめられないという悪循環に陥ります。「断酒補助薬」であるレグテクト(アカンプロサート)はNMDA受容体を阻害することで、興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の働きを抑制します。これによって、興奮性神経の働きが弱まると、抑制性神経の働きを活発にする必要がなくなり、お酒を飲みたいという欲求が抑えられるという機序です。
飲酒量低減薬(減酒薬)
2019年にわが国で発売されたセリンクロ(ナルメフェン)は「飲酒量低減薬(減酒薬)」であり、これまでの「抗酒薬」や「断酒補助薬」とは作用機序や服用の仕方が大きく異なります。オピオイド受容体に作用し、報酬系回路のドパミン神経系を抑制することで、飲酒によって生じる過度な快感を抑えることが中心的な作用です。
アルコール依存症の治療目標はあくまで「断酒」ですが、比較的軽症のアルコール依存症で合併症が顕著ではないケースや、重症であり本来であれば断酒が必要だが本人がそれを希望しない場合には、オプションとして「飲酒量低減(減酒)」というとりあえずの治療目標を設定することも検討できるという位置づけになります。
飲酒する1~2時間前にセリンクロを服用することで、お酒を飲んでもそんなに気持ち良くならず、結果、その日の飲酒量が減るということが期待されます。服用開始後は毎日の飲酒量のモニタリングを行ない、心理社会的治療を継続することが必要となります。
「アルコール依存症=断酒しかない」だけではなく、治療の間口をより広くして、潜在的に治療を必要としているアルコール依存症の方が、病院を受診しやすくなったり、依存症の治療を継続しやすくなるという意義があります。セリンクロによる減酒治療を続けているうちに、あるタイミングで断酒の動機づけができてくる場合もあります。
薬物依存症

- 薬物を使いたいという強い欲求がある。
- やめようとしたり、量を減らそうとしてもコントロールできない。
- 薬物の使用をやめようとすると、強い禁断症状(離脱症状)がある(薬物の種類による)。
- 薬物使用中心の生活になってしまっている。
- 薬物使用のために家族との関係が崩れてしまったり、仕事を続けることができなくなってしまったりする。
薬物依存症は、依存性がある薬物を使用し、やめたくてもやめることができないという病気です。症状が重い方の場合、生活が薬物中心になる、使うためには何でもする、健康的な生活ができず身体もボロボロになる、(使用そのものが違法な薬物の場合)何度も逮捕されるが、自由になるとまた使ってしまうなど、荒廃した生活となってしまうこともあります。
薬物依存症は覚醒剤、大麻、コカイン、MDMAなどの違法な薬を乱用し、やめようと思ってもやめられないという場合が確かに多いのですが、実はそれ以外の薬物依存症の方も少なくありません。処方された睡眠薬、抗不安薬を指示量以上に服用しないと落ち着かない、眠れない方、ドラッグストアで購入する咳止め薬、鎮痛剤などを過剰に服用することが習慣になってしまい、それをやめることができない方などです。
ご本人がこの薬物依存症を何とかしたいというご希望があり、お話ししていただければ、治療やリハビリテーションについて、睡眠薬や抗不安薬の処方整理についても一緒に考えていきたいと思います。薬物依存症リハビリ・相談施設である川崎ダルクへの相談につなげることもできます。